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福岡県の博多天神で開催された、代表者会議(全国青年司法書士協議会)にオブザーバーとして参加してきました!《前半》~「所有権放棄の仕組み作り」とは?~

福岡県の天神にて,令和2年1月18日と19日の二日間に亘って行われた全国青年司法書士協議会の代表者会議にオブザーバーとして参加してきました。

全国各地の青年会の代表者が集まって,活動報告や研究成果を発表する場で、各オブザーバーも含めると約80名くらい参加者がいたと思います。

 

「所有権放棄の仕組み作り」

~「要らない土地は放棄できる?」~

「所有権放棄の仕組み作り」~「要らない土地は放棄できる?」~

様々な研究成果の発表の中でも特に興味深かったのが「不動産所有権の放棄」に関する発表でした。

私も相談者から「実家や預貯金を相続したのはいいけれど、まだ行ったこともない遠方にある雑木林は要らなかったのだけどなぁ。税金の負担がかかるだけだし、火事でもあったら大変だし。」というような悩み事を聴いたことが何度かあります。

土地は、建物と違ってよほどのことが無い限り物理的に滅失することはありません。

では、観念的な土地所有権を放棄することはできるのでしょうか。できるとしたらどのような手続によるべきなのでしょうか。 

~自分のものを捨てるのも自由にできそうだけど・・・~

現行民法においては、所有権の放棄に関する規定がなく、土地所有権の放棄の可否について確立した判例はありません。(法務省法制審議会の民法・不動産登記法部会資料より) 

ある判決では、原則として土地所有権放棄は可能だが、例外的にその権利放棄が権利濫用等に該当する場合には無効であると判断しているようです。

 ~「ランドバンクって?」所有者がいない不動産は国のものになりそうだけど・・・~

 民法第239条第2項で、無主の不動産は国庫に帰属する旨が定められています。所有権の放棄は「相手方のない」単独行為であると解することができますが、所有権放棄の効果によって土地の所有者がいなくなった場合には、結局は国が所有者となるため、所有権を放棄する側と、それによって所有者となる国との利益のバランスをとる必要があります。

無主の不動産が国の所有になると聞くと、そんなの当たり前のことだと思う方もいるかもしれませんが、放棄された土地の帰属先(帰属主体)についても議論があるようです。

現に、所有権放棄された土地が一次的には地方自治体が取得して二次的に国が取得すると定めている国や、所有権放棄された土地は無主となり、国は先占権を取得するにとどまり、先に登記をした者が所有者となると定めている国もあるとのことです。 

現に、法務省法制審議会の民法・不動産登記法部会においても、放棄された土地の帰属先機関として、国、地方公共団体だけでなく、アメリカのランドバンクをモデルとした放棄された土地の管理や流通を主な目的とした専門機関の創設も検討されています。

しかし、新たな専門機関の創設の検討においては、放棄の客体となる土地の採算性が低いことが通常であるため財政基盤の構築が容易ではないと懸念されています。(法制審議会の民法・不動産登記法部会第1回会議の参考資料を参照) 

 

~要らない土地を放棄する手続は?~

実体上、土地所有権放棄が有効にできたとしても、手続上、土地所有権放棄の仕組みが出来ていない現時点で、どのような証明資料を残しておけばいいのかは後述する不動産登記手続とも併せて問題となります。私文書で所有権放棄証書を作成しておけば十分なのか、所有権放棄証書を公正証書により作成するべきなのか、非訟事件類似のものとして裁判上で所有権放棄(処分権の行使)をすることになるのか、紛争になった場合、もしくは紛争を前提として国を相手とする訴訟手続上で行使することになるのか・・・

 ~「Notaire(ノテール)」って?~

フランスにはNotaire(ノテール)と呼ばれる、不動産取引において不可欠な役割を担っている公証人兼登記申請の専門資格者がいます。その制度を参考にして日本でも土地所有権放棄の有効性を判断する機関を設けて、司法書士がその機関に積極的に関与していくべきだという意見もあるとのことです。

 

~登記手続はどのようになるのか?~

土地所有権放棄が有効になされたとして、登記手続の方法が問題となります。所有権放棄が相手方のない単独行為であるとしても、不動産登記法上は共同申請が原則であり、特定の場合でなければ単独申請は認められません。そうすると、結果的に所有者となる国を権利者として共同申請によるべきなのでしょうか。権利者が国であるとしても申請の協力はどのようにして求めることになるのでしょうか。それとも、常に紛争となり裁判上で国を相手方として何らかの登記手続請求権を行使しなければならないのでしょうか。

また、所有権移転登記手続なのか所有権抹消登記手続のいずれによるのかも不明です。

現時点でも実体上有効に土地所有権放棄がされうるとしても、やはり手続として土地所有権放棄の仕組みが完成されていない現状においては限界があると思われます。 

そこで、今まさに法務省では土地所有権の放棄の仕組み作りが審議されています。

私も所属する全国青年司法書士協議会の不動産登記法務研究委員会の先輩方が法務省に提出するパブリックコメントの取りまとめをしている最中です。

これから、どのように法改正がされていくのか注目していきます。